
問題です。いったいこのメニューは何でしょう?
テレビで観たのか知人から聞いてきたのか。オフクロによる久しぶりの新メニューである。その見た目、なんとも可愛らしいというかキテレツというか。食卓に並べられた時、僕は驚いた。
答えは「ハンバーグ」である。しかし、いつものハンバーグではない。タマネギをくり抜いた中に詰め込まれている。しかも、あんかけ。そしてソースの代わりにスープ仕立て。昭和ひとケタ生まれのオフクロにしては中々シャレたことを。
僕はおそるおそるお箸で食べようとした。あんのかかった肉は少し固めだったがうまく掴めた。が、ここで問題が生じたのだ。なんと外側は大丈夫なのだが中のほうがまだ生っぽいのである。
仕方なくタマネギに挑戦。当然お箸では切れないのでナイフで。またまた問題。やはり外側は火が通っていたが芯の方までは通り切っていなかったのだ。テーブルナイフでは切りづらい。どうしたものかとオフクロに問いかけた。
「ねえ、中はまだ生煮えだよ」
「あらら~そぎゃんかい」
「外側のタマネギが厚過ぎたんじゃないか?」
「なら、チンしよっ」
しばしのオアズケ。再びお膳に登場してきたものは・・・湯気がモクモクと立ち、それは口に運べるほどの生半可な熱さではなかった。僕は少しずつ、砂山くずしのようにして肉を壊しては口に運んでいった。そしてフー、フーと。味はいつもながらのオフクロの味。うまい。が、やはり熱い。
「んん~・・・」僕は考え込みながらも少しずつ口に運んでいった。
「なんでん失敗せんとわからん。次は失敗せんから」とオフクロ。
聞けばオフクロは嫁いで来た頃は料理はまったく出来なかったそうだ。八百屋さんに行っても何を作っていいものやら、はたまた何を買っていいものやら・・・オマケに作り方も知らない。しかし、そこはひとケタの女。ご近所の奥さんを見つけて今日は何を作るのか聞き出し、同じものを買い求めたそうだ。
それからがオフクロのすごいところ。そのままその奥さん宅までついて行き、実際に作っているのを見て、それを覚え、急いで我が家に帰り今見た作り方を実践していったそうだ。天晴れ!
オフクロも相当苦労したんだろうな。「食事は姉さんがいつも手伝ってたし。あたしゃ馬のエサやりしかやってなかった」と。
そんなオフクロが試行錯誤で料理を。親父や伯父、職人さんたちに毎日三度三度出していたという。「うまかったかどうか知らんタイ。誰もナンも文句言わんで食べなはった」と笑いながら話す。
そんなオフクロだが、すでに50年以上もこうして毎日造り続けてくれる。ありがたい。当然のように食べていた毎日の料理。その裏話を聞くと涙が出てくる。感謝しても感謝しきれない、親のありがたみ。
さて、今日の和風あんかけスープハンバーグ。味はまさに伊藤家の味でうまかった。が、オフクロとしてはショックだったのだろう。「また作るけん。今度はうまかよ」としきりに言う。僕も「そうタイ」と相槌を打った。
結局、僕はナンダかんだと言いながらも全部平らげた。この年になって、久しぶりのチャレンジ。なんだか自分も忘れかけていたような気がした。
「なんでん失敗せんとわからん」
笑いながら言うオフクロの言葉がやけに沁みた、母の日の夕食だった。