この秋、僕は遠藤響子に・・・
あなたの、その声、その言葉(歌詞)・・・秋の夜に聴くと、胸のいちばん奥の誰にもふれさせたくない部分にじんわりと沁みてくる。人によっては癒されるかも知れないし、人によっては泣かされるかも知れない・・・。
遠藤響子(京子)という名前を聞いたことがありますか? たぶん顔を見れば「ああ、あの女優さんだ」と思い出してくれるだろう。しかし、彼女はれっきとしたシンガー・ソングライターなのである。
簡単にプロフィールを紹介すると、音楽大学在学中、第10回世界歌謡祭(1979)に金沢のバンド、カリビアンレビューのコーラスとして参加した際にレコード会社からスカウトされる。その後、作詞、作曲、歌に目覚める。1981年「告白テレフォン」でデビュー。
以後、ドラマ(女優)、ラジオ(DJ)の出演や、作家としても多数楽曲を他アーティストに提供している。最も知られているところでは、永井真理子のヒット曲『泣きたい日もある』の作者ということだろう。また、今井美樹の女優デビュー作となったテレビドラマ『輝きたいの』の主題歌も担当。本人のヒット曲としては『雪が降るまえに』(1984)がある。
どうしてこんな話をしたかというと。実は僕はずいぶん昔に彼女をインタビューしたことがあった。その時からの隠れファンだった。しかし、時が経つにつれて僕の記憶の中からも消え去りそうになっていた。
彼女のレコードを1枚持っている。先日、常連のI君から「伊藤さん、何かしんみりする日本語の音楽を聴かせてくれませんか?」と言われ、さてどうしたものかとレコード棚をまさぐっていたら、その1枚を見つけたのだ。
『夢見るスター』というアルバム。なんとも香港風な、まさに当時受けを狙った純歌謡風無国籍ジャケット(しかし内容は中々の出来映えだった)。それにしても最悪の趣味。

その中に収録されている『輝きたいの』を聴かせようと思った。
♪運命なら泳いでみせましょう♪このフレーズが大好きだった。I君も気に入ってくれた。僕もひさしぶりに聴いて感動してしまった。
後日、僕は遠藤京子は今どうしているんだろう?とインターネットで探してみた。すると、ヒット。彼女のオフィシャル・サイトを見つけた。
今も歌っていた。うれしかった。いろいろ調べていくうちに、彼女が芸名を遠藤響子と改名し、インディ・レーベルからCDを3枚リリースしていることを知った。言うまでもなく即買うことにした。
数日前に届いた。ワクワクして聴いた。そこには変わらないキレイな声の彼女がいた。そして・・・
遠藤響子の声。ひとことで「キレイ」と言ってしまえばそれだけかも知れない。かつて遠藤響子の名前は、本名である「遠藤京子」だった。しかし、ある人物から「初めて会った瞬間に、この人は“響く子”だと感じた」と言われ、芸名を改名。その時、その人物は本名が「京子」だとは知らなかったそうだ。
僕が彼女の声にふれたのは1985年発表のアルバム『夢見るスター』だった。最初は、高音部での独得の鼻から抜けるような裏がえる声が、正直言ってどうしても好きになれなかった。
しかし、あれから約20年。彼女もさまざまな経験を重ねてきたのだろう。あの頃に比べて、年輪というのか気持ち良く響く。落ち着きが出てきた。奥行きが深くなっていた。
それにしても、どの曲もメロディが美しい。印象的というより、すうっと心に響き、知らないうちに覚えてしまっている。
誤解を恐れずに言うなら、歌詞も含めてであるが、どこか祈りにも似たもの感じる。
改名後第1弾『ホッチキス』は、そんな彼女の魅力を最大限に引き出すべく、本人によるピアノ弾き語り。しかもホールでの一発録り。そのせいか音の響き・広がりが柔らかい。瞬時に彼女の世界へと引き込まれてしまう。
現在のところの最新作。バックの楽器も必要最小限度に抑え、彼女のヴォーカルが真ん中に。「kyk」とは「kyoko」の略だろうか?
何度も言うが遠藤響子の歌詞は心に沁みる。ハッとさせられてしまう。たとえば、このアルバムのM⑨『Positive』では、「生まれたイミを探すより/今日の笑顔を探して」、「強いあなたを目指すより/飾らぬ心のままで」「逃げる弱さを責めるより/自分の良さを見つけて」「すでにもうあなたは/愛されている人」・・・その広い優しさに、泣けて仕方がない。
そして次のT⑩『何も言わなくても・・・』では一切の言葉をなくし、美しく、どこかノスタルジックなメロディをスキャットで綴る。
声の美しさ(キレイさ)は前述したが、それだけではない。彼女の声は“言葉を伝えるために美しい”と言っても過言ではない。それは彼女の歌を一曲でも聴いてもらえばわかってもらえるはず。どの曲も、どんな歌詞もすべて、言葉が届く。何を歌っているのか。何を伝えたいのかが・・・声は最高(最大)の楽器。

■「こういうことなんだろう」(2001)
2000年4月6日~8日に東京・南青山マンダラで行われたライブ。彼女の魅力が全編に現れている。一人でも多くの人に聞いてもらいたい名盤。会場の観客がみんな目を閉じて聴き入っているような空気さえ伝わってくる。
すべての女性にオススメする一枚。もしかすると涙してしまうかも知れないが、泣き疲れて眠り、目覚めた朝には、きっと・・・背筋を伸ばして前へ進んで行けることだろう。男である僕も、この秋どっぷり遠藤響子にハマってしまうに違いない。
遠藤響子は、みんなが言葉に出来ない心の揺らぎを、言葉にし、それを美しい声で旋律に乗せ、そして心に囁き告げる。
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